今回の物語は『前世で交わされた再会の約束』の続き(その4)です。
その1

その2

その3

幼いときから愛し続けたその顔は痩せこけ、深いしわが刻まれていました。もう彼には、笑顔を返す力も残ってはいなかったけれど、彼女はその力ない表情の中に、遠い昔から変わらぬ、優しい笑みを感じていました。
彼は、何度も言葉にならない声で繰り返します。
「置いていってごめん」
そして、だんだんと意識が薄れ、そのまま息を引き取ったのです。夫の頬に、彼女の涙がぽたりぽたりと静かにこぼれ落ちました。
夫と死別したのち、彼女は、娘のもとへ身を寄せることになりました。娘の産んだ男の子は、亡き夫ととてもよく似ていました。彼女は、夫のいなくなった余生を彼によく似た孫の成長を見守りながら過ごします。
72歳。彼女は、何かに感染し、肺の苦しみを感じるようになりました。家族がみなやってきて、和室で床に横たわる彼女を囲んでいます。
彼女は意識が遠のくなかで、泣いている孫の姿と、落ち着いた様子の娘の姿を眺めていました。そして、最後の息を大きく吸い込むと呼吸を止めました。
彼女の魂は肉体を離れ、部屋の上から家族と自分の姿を見ています。
「もう行かなくちゃ」
肉体を離れた彼女の魂が、中間生と言われる死後の魂が還る場所にたどり着くと、その入り口に、懐かしい見慣れた姿がありました。夫が迎えに来てくれていたのです。
川べりを一緒に歩いたあの幼い日々のように、彼に手を引かれて魂が向かうところへ進んでいきます。そこにたどり着くと、夫と彼女の魂は一つになり、彼女の内側から彼の声が響きました。
「生まれ変わって体を持ったら、また離れ離れになってしまうけれど、今度も必ず俺が見つけるからね」
そして、一つになった魂は、再び二つに分かれ、別々の人生を歩むことになります。
体験記29につづく

この体験記は1章〜7章、全58,000文字で構成されています。
HPでは3章くらいまで順次公開予定ですが、お先に読み進めたい方、最終章まで読みたい方は、noteにてご購入いただけます。
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