今回の物語は『前世で交わされた再会の約束』の続き(その2)です。
その1

蔵の前で、いつものように待っていてくれる少年の姿を見ると、心の緊張がゆるみ、自然と笑みがこぼれました。そんな彼女の姿を見つけると、彼もまた小さく笑顔を返します。
そして、言葉を交わすこともなく、少年は少女の手を取ると、蔵の下に流れる小川へと歩いていきました。しばらくの間、柔らかな草の生い茂る川沿いを、手をつないで散歩する。それが、いつもの二人の時間の過ごし方でした。
小川のせせらぎや小鳥の鳴き声、時折吹く風にさらさらとゆれる草の音に耳を傾けながら、とくに何かを話すわけでもなく、隣にお互いの存在を感じることで心を寄せ合い、ただ歩き続ける。少年と一緒にいられないときでさえも、いつも彼とつながっているように感じ、彼の存在が少女の胸の中の寂しさを埋めてくれるのでした。
少女が16歳になったある日、祖母から、隣町に住む顔も知らない男性との結婚が知らされました。年老いた祖母が、彼女を早く一人前にしなければと危惧し、この男性の元への嫁入りを決めてきてしまったのです。もちろん、彼女の承諾なしに。
母親代わりの祖母の決めたこと、彼女に選択肢はありません。初めて会う自分の夫の姿をぼんやりと眺めながら、幼馴染の彼のことを思うと、胸がぎゅっと苦しくなりました。
幼馴染の彼に、結婚することを告げることもできないまま、時間だけが流れていきます。そして、嫁入りの日がいよいよ近づいてきたある日のこと。どこかで彼女の嫁入りの話を耳にしたのか、困ったような悲しいような表情で、遠くから彼女の姿を見つめる幼馴染の姿がありました。
その数日後、祖母が寝静まると、彼女は小さな荷物を抱えて家を出ました。まだ小さかったころ、少年と会うために祖母の目を盗んで家を抜け出したあのときよりも、もっと体を強張らせて。
体験記27につづく

この体験記は1章〜7章、全58,000文字で構成されています。
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