それは、コトノオにとっては、今世の一つ前の前世での出来事でした。時はおそらく明治時代。日本のどこかの小さな町で暮らしている、膝丈の長さの赤い着物を着た女の子。その少女が、コトノオの前世の姿です。
少女は、祖母と二人きりで暮らしていました。母親は厳格な祖母に反発し、生まれたばかりの彼女を置いて家を出て行ってしまい、それきり戻ることがありませんでした。
祖母は、いつも眉間にしわを寄せ険しい表情をしていました。素足で屋根裏から続く細い階段を降りてくると、祖母の様子を伺う少女。祖母の眉間のしわに刻まれた悔恨が、彼女の小さな胸に重苦しくのしかかります。
小さな少女は、そんな祖母の後ろ姿を眺めながら、着物の裾を小さな手できゅっと握りしめ、悲しみに一人耐えるしかありませんでした。父親の顔も、母親の顔も知らない彼女には、家の中で自分を守ってくれる人が、誰一人いなかったからです。
けれども、そんな彼女が唯一心を開き、穏やかな気持ちになれる相手がいました。それは、近所に住む、一つか二つ年上の幼馴染の少年。
彼女は、家の中にいるのが嫌いで、幼馴染の少年に会うために、祖母の目を盗んでは、外に出かけて行きました。体をきゅっと緊張させて、物音を立てずに玄関を出ると、ふうっと大きな息を一つ吐いて、家の裏にある黒い壁の蔵にまっすぐに駆けていきます。そこでいつも、幼馴染の少年が待っていてくれるからです。
この少年こそが、コトノオのツインソウルである現在の夫の前世の姿です。
体験記26につづく

この体験記は1章〜7章、全58,000文字で構成されています。
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