今回の物語は『前世物語・魂の旅の起点』の続き(その3)です。
その1

その2

「あれは、なんだ?」
それまで、人生にこれほどまで力強く訴えてくる何かがあっただろうか。何かが彼の胸を力強く貫き、息をのむほどでした。
彼女の情熱が矢のように彼に向かい、突き刺さります。彼女を見ていた数十秒のあいだに、彼の体中の毛穴が開き、これまでに感じたことのないエネルギーが魂の奥から湧き上がってくるのを感じていました。それは、あまりにも熱く、身動きがとれないほどでした。
人の流れに押されて彼女は準備された船に入っていきました。彼女の姿が見えなくなると、彼の体の中に感じられたエネルギーは消え去り、再びいつもの冷静な彼に戻りました。
この捕虜の女性との出来事は、豊かさ、名誉、地位を当たり前のようにもたらした彼の貫徹した冷静さを、人生においてただ一度だけ揺るがした出来事でした。
そして、彼は、亡くなるまで彼女のあの目を忘れることはありませんでした。
彼女の瞳の奥から感じたものは、愛や恋などではありません。それは“熱”でした。
この出来事は、彼女との熱のやり取りでした。熱に浮かされた幻のような数十秒は、今までの人生において感じられることのなかった熱を、彼が生まれて初めて感じた瞬間でした。それはまるで、どんな雨風にも微動だにしなかった静かな湖面が、突然落ちてきた一滴のしずくにより、波立ち、その波紋が拡がっていくようでした。
この熱が、彼の人生を生きたものにしたのです。だけど彼は生涯、熱の正体について知ることはありませんでした。彼の魂が地球に転がり出て、初めて感じた「人間として生きる」ということ。彼の人生で熱を感じたこの出来事が、その後のコトノオの魂の旅の起点となります。
そして、もう一つ。このエーゲ海での戦いが彼の魂にとって大事な要素を持っていました。
それは、平和な期間と、戦いの期間を繰り返しながら、自分が守るべきものを理解していったことです。国の女性たち、そして女性たちが育てる子供。「これらを、守っているんだ」と、経験のなかで体得したことは、男性という性として生きる芽吹きでした。
体験記12につづく

この体験記は1章〜7章、全58,000文字で構成されています。
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